[債務整理] 否認請求認容決定に対する異議

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主文

1 原告の請求を棄却する。
2 札幌地方裁判所平成16年(モ)第9002号否認請求の申立事件において平成16年3月30日付けで同裁判所がした否認の請求を一部認容する決定を認可する。
3 訴訟費用は,原告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求

1 札幌地方裁判所が,再生債務者株式会社甲監督委員桶谷治(後に被告が訴訟承継)を申立人,原告を相手方とする同裁判所平成16年(モ)第9002号否認請求の申立事件(基本事件・平成15年(再)第21号民事再生手続開始申立事件)について,平成16年3月30日にした決定を取り消す。
2 申立費用及び訴訟費用は,いずれも被告の負担とする。

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第2 事案の概要等

本件は,原告が再生債務者株式会社甲監督委員桶谷治の申し立てた否認の請求(民事再生法127条,135条)を一部認容した原決定(以下,「本件原決定」という。)は,不当である旨主張して,その取消を求めた異議の訴え(民事再生法137条)である。
再生債務者株式会社甲は,平成16年6月24日,札幌地方裁判所により,民事再生法191条2号に定める事由があるとして,再生手続の廃止決定がなされ,同年7月23日,民事再生法16条に基づき,破産宣告を受け(同庁平成16年(フ)第3760号),同日,被告が選任された。被告は,再生債務者株式会社甲監督委員桶谷治を受継した。
1 前提となる事実(証拠を掲記しない事実は,当事者間に争いがない。)
(1) 再生手続の開始決定等
ア 株式会社甲は,平成15年11月7日,再生手続開始の申立てをした(札幌地方裁判所平成15年(再)第21号)。札幌地方裁判所は,同月10日,株式会社甲につき,再生手続の開始決定があるまで,弁済等を禁止する保全処分を発令した。(甲10,弁論の全趣旨)
イ 札幌地方裁判所は,平成15年12月5日,株式会社甲につき,監督委員として弁護士桶谷治を選任し,監督命令を発令した。(甲8,甲10)
ウ 札幌地方裁判所は,平成15年12月12日,株式会社甲につき,再生手続開始の決定をした。(甲8,甲10)
(2) 株式会社甲の原告からの借入等
ア 株式会社甲は,平成15年3月4日から,原告との間で,手形割引による取引を始め,同月27日からは,借入を行うようになった。
株式会社甲は,同年10月27日,原告から,弁済期日を同年12月5日として,手形貸付により,合計1500万円の借入をした(以下,「本件借入」という。)。
(甲4,甲14,甲23,証人A)
イ 有限会社乙及び同社の代表取締役訴外Bは,平成15年4月15日,原告との間で,株式会社甲の原告からの借入について極度額1000万円の根保証契約を締結した。
(甲14,甲23,証人A)
(3) 株式会社甲と有限会社乙との関係等
株式会社甲の平成15年3月当時の役員構成は,代表取締役訴外A,取締役訴外C,訴外D,訴外E及び訴外F並びに監査役訴外Gであった。
有限会社乙の同時期の役員構成は,代表取締役B,取締役訴外K及びE並びに監査役Fであった。Bは,Aの娘であり,Kは,Aの親族である。
また,有限会社乙は,その事務所を,株式会社甲から賃借していた。(甲7,甲8,甲10,甲14,証人A)
(4) 本件借入の弁済
F及びBは,平成15年11月11日,原告の担当者訴外Hに対し,有限会社乙の事務所において,受取手形3通を手形割引取引して366万0052円を,875万8067円を現金で,本件借入の返済分として支払った。
B及び株式会社甲を担当していた会計事務所の訴外Iは,翌12日,同様に,原告の担当者に対し,206万2321円を現金で支払った。
原告は,これらの返済について,有限会社乙が保証債務を履行したものとして,同社宛に領収書を発行した。
なお,同月11日における875万8067円の前記支払,翌12日における206万2321円の前記支払について,以下,まとめて「本件弁済」と称することとする。
(甲2,甲3,甲14,甲16,甲17,甲19から甲21,甲23,甲27,甲30,証人A,証人F,証人H)
(5) 監督委員による否認請求
再生債務者株式会社甲監督委員桶谷治は,裁判所から当該否認権を行使する権限の行使の付与を受けて,平成16年1月6日,原告を相手方として,本件借入について平成15年11月11日及び同月12日の各弁済を受けた行為について否認の請求を行い(札幌地方裁判所平成16年(モ)第9002号否認請求の申立事件),同請求は,本件原決定により,1444万4746円
の給付請求のうち,1078万4694円(本件弁済分の否認額)について一部認容された。(乙1)
(6) 株式会社甲の再生手続の廃止,破産宣告手続等
札幌地方裁判所は,平成16年6月24日,株式会社甲の再生手続につき,民事再生法191条2号に定める事由があるとして,職権で廃止決定をした。
札幌地方裁判所は,同年7月23日,株式会社甲につき,民事再生法16条に基づき,職権で破産宣告をし(同庁平成16年(フ)第3760号),同日,被告を選任をした。(弁論の全趣旨)
2 争点 
(1) 本件弁済は,株式会社甲の原告に対する本件借入の返済としてなされたものであるか,あるいは,有限会社乙の原告に対する本件借入の保証債務の返済としてなされたものであるか。(争点@)
(2) 争点@において,仮に,本件弁済が有限会社乙の原告に対する本件借入の保証債務の返済としてなされたものと認められる場合,民事再生法127条1項2号,同134条により否認しうるか。(争点A)
3 当事者の主張
(1) 争点@(本件弁済の主体)
(原告の主張)
ア 本件弁済は,有限会社乙の原告に対する本件借入の保証債務の返済としてなされた。
したがって,本件弁済は,民事再生法127条1項各号の否認対象行為のいずれにも該当しない。
イ 被告は,本件弁済について,株式会社甲が行ったとするが(本件原決定も同旨),この点は,次のとおり,理由がない。
(ア) 本件弁済は,有限会社乙の名義でなされている。
(イ) 被告の主張は,本件弁済の原資について株式会社甲から捻出されたことを前提にしているが,これを認めるに足りる証拠はない。
本件弁済の原資は,有限会社乙の営業資金と考えられる。
(ウ) 被告の主張は,株式会社甲と有限会社乙とが実質的に同一の法主体であると評価できることを前提にしているが,有限会社乙には,法人格否認の法理の適用事例に見られる法人格の形骸化等の事情はない。
(エ) 株式会社甲の代表者であるAや同社の取締役Fは,株式会社甲の名義で,本件借入の返済を行うことを避けることを考えていた。
そのために,有限会社乙があえて本件弁済を行っていた。
(被告の主張)
ア 本件弁済は,有限会社乙が原告に対し返済したという形式を取っているが,株式会社甲が原告に対し,直接返済したものというべきである。
したがって,本件弁済は,民事再生法127条1項2号による否認対象行為である。
イ 前記アのとおり解すべき理由は,次のとおりである。
(ア) 本件弁済の原資は,株式会社甲から捻出されている。有限会社乙には,本件弁済を行う資力はない。
(イ) 株式会社甲と有限会社乙は,役員構成で重なるだけでなく,有限会社乙代表者は,株式会社甲代表者Aの娘である。
また,有限会社乙の営業は,株式会社甲の営業に完全に依存する関係にあった。
以上からすれば,株式会社甲と有限会社乙は実質的には一体と解される。
(ウ) 本件弁済が有限会社乙の名義で行われたのは,株式会社甲が民事再生申立て手続中であり,保全命令の禁止事項に触れるのを防ぐための偽装である。
(2) 争点A(本件弁済が有限会社乙の原告に対する本件借入の保証債務の返済としてなされたものと認められる場合,本件弁済は,民事再生法127条1項2号,同134条により否認しうるか)
(原告の主張)
ア 本件原決定は,再生債務者株式会社甲監督委員桶谷治による否認請求において,本件弁済が有限会社乙の原告に対する本件借入の保証債務の弁済としてなされたことを前提にした民事再生法127条1項2号,同134条に基づく否認の主位的請求について,棄却したものと解される。
本件原決定に対しては,原告のみが不服申立てをしているところ,本件訴訟においては,有限会社乙が原告に対して本件弁済をなしたことを前提として,民事再生法127条1項2号,同134条によりこれを否認しうるとの被告の主張は,審判の対象とならない。
イ 仮に前記アのとおりでないとしても,有限会社乙は,民事再生法134条の「転得者」には該当しない(なお,原告が,同条の「転得者」に該当しないのも当然である。)。
被告の主張は,株式会社甲から有限会社乙へと支払われた特定性のない金銭について「転得」と構成しており,この点で誤っている。
さらに,有限会社乙が民事再生法134条の「転得者」に該当する余地があるとしても,原告は,本件弁済に用いられた金員が株式会社甲の出捐によるものとは知らないから,民事再生法134条1項1号に定める「否認の原因のあることを知っていた」ことにはならない。
(被告の主張)
ア 本件弁済は,株式会社甲の原告に対する本件借入の返済としてなされたものであるか,あるいは,有限会社乙の原告に対する本件借入の保証債務の返済としてなされたものであるかという点は,再生債務者株式会社甲監督委員桶谷治による否認請求を判断する上で,いずれを先に認定すべきかという論理的な関係にはない。
したがって,本件原決定は,本件弁済が有限会社乙の原告に対する本件借入の保証債務の弁済としてなされたことを前提にした民事再生法127条1項2号,同134条に基づく否認の主位的請求について,棄却したものとは解されず,本件訴訟においても,かかる主張は,審判の対象となる。
イ 本件では,本件弁済に用いられた現金は,原告に対し遍頗弁済がなされたことの発覚を防ぐ工作のため,株式会社甲からAに,Aから有限会社乙へと一般財産に混入することなく,特定性をもったまま移動した。
したがって,有限会社乙あるいは原告は,民事再生法134条の株式会社甲の金銭の「転得者」に該当する。
また,原告は,上記事情を知っており,被告は,本件弁済が,民事再生法134条1項1号に定める「否認の原因のあることを知っていた」ことになる。

第3 当裁判所の判断

1 争点@(本件弁済の主体)について
(1) 前記第2の1で認定した事実,後記認定に供した証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア 本件借入に至るまでの経緯
(ア) 株式会社甲は,原告との間で,平成15年3月4日から,手形割引による取引を始め,同月27日からは,借入を行うようになった。
株式会社甲は,同年4月初めころ,原告に対し,新たに500万円の融資を申し込んだところ,従前に加えて新たに保証人を提供するよう求められた。
株式会社甲の代表者であるAは,娘のBが代表者を務める有限会社乙を保証人とすることを申し入れ,原告は,これを承諾した。
有限会社乙及びBは,平成15年4月15日,原告との間で,株式会社甲の原告からの借入について極度額1000万円の根保証契約を締結した。
有限会社乙は,前記根保証契約の際,原告に対し,同社の平成13年11月6日から平成15年8月31日までの2期分の決算書の提出をしている。
(前記第2の1前提となる事実(2)アイで認定,甲5,甲6,甲14,甲23,証人A,証人H)
(イ) 株式会社甲は,平成15年10月27日,原告から,弁済期日を同年12月5日として,手形貸付により,合計1500万円の本件借入をした。
株式会社甲は,原告に対し,同年10月末ころまでに,前記1500万円の債務を負っていたほか,合計で約5000万円の手形割引取引を行っていた。
(前記第2の1前提となる事実(2)アイで認定,甲4,甲23,証人F,証人A)
イ 株式会社甲の再生申立て等
(ア) 株式会社甲は,役員会において,平成15年11月初め,資金繰りが苦しく,信用不安を起こしていたため,債務を整理するための法的手続を取らざるを得ないと判断した。株式会社甲は,同月4日ころ,訴外J弁護士に対し,民事再生の申立てを依頼した。(甲14,甲27,証人F,証人A)
(イ) 株式会社甲は,平成15年11月7日,再生手続開始の申立てをした(札幌地方裁判所平成15年(再)第21号)。
札幌地方裁判所は,同月10日,株式会社甲について,再生手続の開始決定があるまで,弁済等を禁止する保全処分を発令した。
(前記第2の1前提となる事実(1)アの認定)
ウ 本件弁済に至るまでの経緯
(ア) 株式会社甲は,役員会において,平成15年11月5日ころ,民事再生申立てを行った場合は,原告に対し,本件借入分と手形割引取引分を合わせて約6500万円を原告に対し即時に支払わなくてはならず,民事再生手続がうまくいかなくなる可能性があること及び原告の債権取立が厳しいと聞いていたことから,本件借入分については返済せざるを得ないと判断した。
株式会社甲は,原告に対してのみ本件借入分を返済することは,J弁護士には相談しなかった。
株式会社甲の会計担当取締役であったFは,平成15年11月10日,原告の岩見沢営業所所長のHに対し,株式会社甲が民事再生の申立てを行ったこと,本件借入分について返済する旨を架電した。(甲14,甲23,甲27,甲30,証人F,証人A,証人H)
(イ) 株式会社甲は,平成15年11月7日までに,入金された現金等2200万円を用意した。
株式会社甲は,前記金員について,民事再生申立手続費用,代理人費用を拠出し,その余の1500万円前後の現金と受取手形を原告への支払原資とすることにした。
Aは,株式会社甲の事務所には,債権者が取り立てに来ていたことから,これを自分の鞄に入れて管理することにした。
Aは,前記鞄を自宅,その後,有限会社乙の事務所の金庫に保管し,他の債権者に発覚しないように,有限会社乙の事務所において,原告に対し支払うことにした。(甲14,証人F,証人A)
(ウ) Fは,平成15年11月11日,有限会社乙の事務所において,原告の担当者Hに対し,受取手形3通を手形割引取引して366万0052円を,875万8067円を現金で,本件借入の返済分として支払った。
Hは,有限会社乙が入金した旨の計算書を作成した。この席上には,Bも同席した。
Bは,翌12日,原告の担当者訴外Lに対し,本件借入の返済分として206万2321円を現金で支払った。
Hは,有限会社乙宛に領収書を作成した。この席上には,株式会社甲を担当していた会計事務所のIも同席していた。
これらの支払に充てられた受取手形3通及び現金は,有限会社乙に保管された前記(イ)記載の鞄に保管されていたものであった。
(前記第2の1前提となる事実(4)で認定,甲2,甲3,甲14,甲19から甲21,甲23,甲27,甲30,証人F,証人A,証人H)
(エ) 株式会社甲は,前記(イ)のとおり,1500万円前後の現金と受取手形について原告への支払原資とすることにしたが,同社の帳簿上の出金処理としては,Aが株式会社甲に対し,約9000万円の貸付をしていたため,Aに対する返済金として処理した。(甲13,甲14,甲27,証人F,証人A)
エ 株式会社甲と有限会社乙との関係等
(ア) 株式会社甲は,平成9年7月25日成立し,平成10年9月8日設立登記された。
株式会社甲の営業内容は,砂,砂利等の採取,加工及び販売等である。
株式会社甲は,前経営者の評判が悪く,設立当初から,業者間,官公庁での評価は低かった。
Aは,同社の経営を立て直すため,他社から出向して入社し,平成11年11月,代表取締役に就任した。
株式会社甲の平成15年3月当時の役員構成は,代表取締役A,取締役C,D,E及びF並びに監査役Gであった。(前記第2の1前提となる事実(3)で認定,甲8,証人A)
(イ) 有限会社乙は,平成13年11月6日設立登記され,その営業内容は,砂,砂利等の採取及び販売等である。有限会社乙は,Aの娘で,当時二十三,四歳であったBが出資持分をすべて保有し,設立当初から同人が代表取締役に就任している。
しかし,実質的には,株式会社甲が前記(ア)記載のとおり第三者からの評価が低いことから,営業力,信用力を補うためにAが資金を出して設立したものであった。
有限会社乙の取締役は,Aの親族であるK,監査役は,訴外Mであるが,株式会社甲の取締役であったE及び同Fも,平成15年10月1日まで,有限会社乙の取締役及び監査役をそれぞれ務めていた。
有限会社乙は,その事務所を,株式会社甲から賃借し,株式会社甲の製品の販売を行っていたが,その業務に現実に従事していたのは,Bの1名であった。(甲7,甲14,甲27,証人F,証人A)
(ウ) 有限会社乙の第1期(平成13年11月6日から平成14年8月31日まで)の決算報告書には,資産合計約582万円のうち,現金・預金が約110万円,売掛金が約435万円であり,負債約486万円のうち,買掛金約415万円すべてが株式会社甲に対するものである旨記載されている。
同じく第2期(平成14年9月1日から平成15年8月31日まで)の決算報告書には,資産合計約1463万円のうち,現金・預金が約114万円,売掛金が約1303万円であり,負債合計約1134万円のうち,買掛金約1091万円のうちの約1087万円が株式会社甲に対するものである旨記載されている。(甲5,甲6)
(2) 前記(1)で認定した事実及び後記認定に供した証拠によれば,本件弁済が有限会社乙の原告に対する本件借入の保証債務の返済としてなされたとの主張に沿う次のとおりの事実が認められる。
ア 本件弁済に関する計算書における入金者,領収書の宛先は,いずれも有限会社乙となっている。
イ 本件弁済は,平成16年11月11日及び翌12日,有限会社乙の事務所において行われ,両日とも,有限会社乙の代表者であるBが立会っている。
ウ 本件弁済に用いられた現金,受取手形は,帳簿上,株式会社甲からA宛に返済分として出金処理された。
Aは,前記現金,受取手形を,原告に対する支払に充てるものとして有限会社乙の事務所金庫に保管した。
エ 株式会社甲の役員会では,原告に対する手形貸付による借入に相当する債務約1500万円については,支払わざるを得ないとしながらも民事再生申立てを行うことから,株式会社甲ではなく,有限会社乙を窓口として支払うことを決めていた。(証人F,証人A)
以上の事実によれば,本件弁済は,形式的には,有限会社乙の原告に対する本件借入の保証債務の返済としてなされたということができる。
しかしながら,前記(1)で認定した事実によれば,次のとおりの事実も認めることはできる。
(ア) 有限会社乙は,独立した法人格を有しているが,実質的には,Aが設立した会社というべきで,代表者,役員もAの親族である。
また,その営業実体は,株式会社甲の販売部門の一部を担当しているに過ぎなかった。
(イ) 本件弁済を原告に対し最初に申入れたのは,株式会社甲の取締役であり,当時は有限会社乙の役員を辞任していたFである。
(ウ) 本件弁済は,有限会社乙の事務所において行われたが,その理由は,株式会社甲の債権者からの目にふれないためであった。
また,本件弁済が行われた両日とも,Bだけでなく,株式会社甲の関係者(平成16年11月11日はF,翌12日は,I)が立会っている。
Bは,当時,二十五,六歳であったことを考えると,原告の担当者との間で,本件弁済の交渉,事務手続等を行ったのは,株式会社甲の関係者と考えられる。
(エ) 本件では,本件弁済に用いられた現金は,株式会社甲からA,Aから有限会社乙へと移動した。株式会社甲からAへのかかる資金移動は,株式会社甲からAへの返済としてなされたとみることができるものの,民事再生申立て後に,真実に,代表者への偏頗弁済がなされるはずはなく,Aから有限会社乙への資金移動についても法的な構成は不明である。
以上からすると,かかる資金移動は,株式会社甲から原告への弁済につき,弁済禁止の
保全処分を免れるための偽装というほかはない。
(オ) 原告の担当者Hは,本件弁済を受けた当時,株式会社甲が民事再生申立てを行ったこと,株式会社甲から返済を受けることは,問題があることを認識していた。(証人H)
以上の事実によれば,本件弁済は,有限会社乙の原告に対する本件借入の保証債務の返済としてなされたという形式を取っているものの,かかる形式を取ったのは,第三者に発覚することを防ぐために過ぎず,真実には,本件弁済は,株式会社甲が原告に対し直接行ったものというべきである。
以上から,これに反する原告の主張を採用することはできない。
(3) 前記(2)で説示したところによれば,本件弁済は,株式会社甲が原告に対し直接行ったものというべきであり,かつ,本件弁済は,株式会社甲の民事再生手続の申立て後に行われたものであるから,本件弁済は,民事再生法127条1項2号本文に該当する。
また,原告の担当者Hは,本件弁済がなされた当時,株式会社甲が民事再生申立てを行ったことを知っていたことは,前記説示のとおりであるから,本件弁済が民事再生法127条1項2号但書に該当することはない。
(4) そうすると,その余の点を判断するまでもなく,再生債務者株式会社甲監督委員桶谷治の否認の請求を一部認容した本件原決定は結論において相当と認めることができる。
2 なお,本訴は,民事再生法137条に基づく本件原決定に対する異議の訴えであるところ,再生債務者株式会社甲は,本件訴訟係属中,民事再生手続の廃止がされ,破産宣告を受けている。
その場合,(ア) 民事再生法上の制度である否認請求の異議の訴えを内容とする本件訴訟手続を,破産者株式会社甲の破産管財人である被告が受継することができるか,(イ) 本判決において,再生債務者株式会社甲監督委員桶谷治のなした民事再生法127条,135条に基づく否認の請求に対する一部認容した本件原決定の認可判決をしうるかについては,疑問のあるところである。
しかしながら,再生手続において,再生債務者の財産確保を目的とする否認請求の制度と破産手続における破産財団の財産確保を目的とする否認の訴え制度は,その目的において同一であることからすると,再生手続及び破産手続は,一連の手続であると考え,前記(ア)(イ)を肯定すべきと考える。
3 よって,本件原決定は,相当であるから,その取消しを求める本件請求を棄却し,本件原決定を認可し,訴訟費用の負担については民事訴訟法61条を適用して主文のとおり判決する。

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